クロセの書庫。

読んで面白かった本をこっそり紹介。

哲学や思想を学びたい人に超おすすめの一冊『倫理用語集』。

おはようございます。

いつもツイッターなどで「哲学を学ぼう」とか「思想的なバックボーンを持とう」と言っている私ですが、「具体的にどんな本を読めば良いのか」という問いには「まずデカルトを読め」とか「とにかく古典の本を読め」などと、今思うと初心者には少し酷なことを言ってきたかなと思います。

というのも、哲学の入門書はコレというものがなかった。まず個別の哲学者について掘り下げた入門書が多いし、哲学史全体を説いた入門書でも「広く浅く」になってしまってたり、抜けてる期間があったり、筆者独自の主観が入ってたりで、まぁ「読み物」として何冊か読む分には良いですが、一つだけオススメできるものがなかったんですね。

しかしそんな中でこの『倫理用語集』という本の存在を知りました。

「倫理」と書いてますが、完全に哲学や思想を説いた本です。これがとにかく哲学や思想の入門書としてはオススメだなぁと。

山川出版さんの教科書といえば受験生など学生が読むものというイメージがあるかもしれませんが、こちらの倫理用語集はむしろ大人の学び直しに超オススメですね。

最近、ぴよぴーよ速報さんというYouTubeチャンネルでも紹介されていました。というか、それを見て買ったのですが。

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 この動画でも言ってるように、岩波文庫の個別の哲学書を読んでも、「まぁ肝となる部分は倫理用語集に書いてるなぁ」となる事が多いです。それぐらい網羅的に、かつ内容が深く書かれています。

そして何よりこの倫理用語集がオススメなのは、用語集というので個別の哲学や哲学者について書かれているのかと思いきや、全体的な哲学史としての流れが読み取れるところです。

例えばバークリーという哲学者について書かれた部分ではこうです。

事物は心によって知覚される限りにおいて存在すると考え、『存在するとは知覚されることである』と説いた。

 まぁこれはすごく簡単に言うと、どんなモノも自分が見たり触ったりするから存在すると言えるんだなぁ、というような感じの内容です。

 そしてバークリーを解説した直後に、ヒュームについて以下のように書かれて言います。

あらゆる事物のあらわれを、人間が経験する感覚的印象に還元し、知覚のほかには何も実在しないと説いた。(中略)バークリーが実体と認めた自我さえも、知覚の束にすぎないものとして実在を否定した。

 つまりバークリーはいろんなモノを認識する主体としての「自分」は認めていたわけですが、ヒュームはそれすらも否定した事がわかります。

ヒュームは自我さえも否定し、単に「〇〇を感じた」という知覚の束のようなものが「自我」と呼ばれているものである、と。

この流れは非常にわかりやすいですよね。単に「ヒュームは知覚のほかには何も実在しないと説いた」的な説明だけだと、それが哲学史的にどう凄いのかよくわかりませんからね。

そしてこんな感じで、全ての哲学や哲学者に対する掘り下げが、結構深いんですよね。これを読むだけである程度はバークリーやヒュームがイギリス経験論においてどう意義があるのか、というのが語れてしまいます。

これほどの濃さがありながら、カバーしている範囲も非常に手広いです。

第1部は『青年期の特質と課題』というタイトルで、モラトリアムとかアイデンティティの確立とかフロイト精神分析とか、高校倫理で習うような用語がたくさん紹介されています。

第2部は『思想の源流』というタイトルで、古代ギリシア哲学やキリスト教、仏教、イスラム教、古代中国の思想などの古代の思想がかなり網羅的に解説されています。

第3部は『日本の思想』ですね。日本古来の土着の思想に始まり、奈良仏教から鎌倉仏教までの日本の仏教の変遷や、朱子学や武士道や国学などの近世の思想、そして福沢諭吉などの近代日本人の思想が解説されています。

そして第4部、第5部とルネサンスデカルトから始まりポストモダンプラグマティズムなどの現代の哲学までが解説されてます。第6部は生命倫理などの現代の課題を扱っていますね。

非常に手広いですね。大体これを読むことで世界中の思想が俯瞰的にわかるようになります。哲学や思想を学びたての方は第1部から順番に読んでいってもいいですし、それなりに学んできた方は自分があまり知らない分野を補強するために読んだり、逆に知ってる分野を「こういう解釈で良いのか」と確認するために読むのもいいですね。

私も近世以降の哲学はそれなりに齧ってきたつもりでしたが、改めて誰がどんな事を言っているのか整理できましたし、初めて知った用語もありましたね。非常に細かい哲学者まで取り扱ってますし、どの哲学者がどの時代にどこで何をしていたかなど、史学的な部分もかなり取り扱ってくれてるので、見聞が広がります。

もちろん哲学や思想を勉強していく上でわからない単語を調べる辞書的な役割としてもオススメですね。

やはり餅は餅屋といいますが、教科書を使っている山川出版さんの本はすごくビギナーに適しているなと思いました。

他にも哲学の入門書などはあるのですが、ここまでの範囲と中身を両立しているものは見た事がないですね。

そして他の哲学の入門書はやはり哲学書としての面が強いんですね。哲学者があくまで自分の哲学をわかりやすく書いてたり、導入のために必要な知識を解説する、という感じで。

その点、こちらの『倫理用語集』ももちろん学者さんが監修しているのですが、最初から初心者向けの教科書として特化して書かれているので、非常に普遍的な内容で、誰にでもわかりやすいという点があると思います。