クロセの書庫。

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現代アメリカを理解するための最強の一冊『ローティの教育論』。

おはようございます。今回は現代のアメリカを理解するためのオススメ本として、この『ローティの教育論』を挙げたいと思っています。

さて『ローティの教育論』というタイトルの本ですが、これはタイトルで最高に損をしているなと。この本は確かにローティの教育論を説いた本なのですが、それだけではなく最新の「プラグマティズム」のわかりやすい解説書であり、デューイとローティの哲学の「違い」をわかりやすく解説した本でもあります。

つまり教育論だけでなく哲学の解説書でもあり、かつプラグマティズムアメリカを理解するために超重要な部分を扱ったものなのです。

まず「プラグマティズム」とは何かと言いますと、哲学の中でもアメリカで生まれた哲学であり、現代のアメリカの根底を流れている哲学です。

アメリカに限らずどこの国もそうですが、日々のニュースや社会の動向を追っているだけでは、なかなかその国の本質は見えてきません。例えばドイツやフランスなどの大陸ヨーロッパではキリスト教に加えて大陸哲学の影響を大きく受けているし、中国ならば儒教共産主義の思想に大きく影響を受けている。イスラム圏の国々ならばもちろんイスラム教の思想に影響を受けている人が多いでしょう。

その点、日本はなかなかわかりにくいです。複数の思想や宗教が絡み合っている上に、文化として宗教や思想が(他の国と比べて)色濃く残っているわけではないので、わかりにくい。しかしそんな日本でも、例えば神道の考え方というのは今だに色濃く残っています。神道は他の宗教と違って「目的がない」宗教です。例えば仏教ならば解脱を目指して修行しますが、神道は「八百万の神々に感謝しながら日々を生きる」という、日常を穏やかに生きる事が目的となっています。こう言われると、確かに日本人はあまり感情的になる事も少なく、大きな目標に向かって一致団結する事もあまりなく、ただただ日々を生きる事を目的としている人が多い。神道の思想が根底に流れているような気がします。

少し話が逸れましたが、他の国々と同じように、現代のアメリカ人の哲学や思想としてもっとも強く流れているのが「プラグマティズム」というものです。「アメリカは多民族国家なのに一つの思想なんてあるもんか」と言われるかも知れませんが、「プラグマティズム」はそういった複数の思想の「調停者」的な役割がある思想でもあります。

その辺の話は魚津さんの『プラグマティズムの思想』という本がわかりやすいかも知れませんね。プラグマティズムが生まれるまでの社会的な背景もしっかり解説してくれているので、入門書としてはコチラもオススメです。

 さてそんなプラグマティズムですが、これも思想の原型が出来ていたのは1870年から74年頃だそうで、100年以上の歴史があるので一筋縄ではいかない。最初と比べてプラグマティズムの思想も変化していますし、もちろん哲学者によってグラデーションがあります。

ただプラグマティズムを理解する上でもっとも重要な哲学者であるジョン・デューイと、現代アメリカを代表する哲学者であるリチャード・ローティプラグマティズムにおける相違点を解説している『ローティの教育論』は、控えめに言ってかなりの良書ではないかなと。

『ローティの教育論』ではローティとデューイの関係性を以下のようなものとして捉えています。

ローティはデューイのプラグマティズムを現代の社会状況や思想的文脈において解釈し直し再評価してその今日的意義を見出しているのだが、デューイのプラグマティズムを全面に受け入れているわけではない。そのため、仔細に検討すると両者には相違する点も少なからず指摘できる。

 そしてその相違点として、第一にデューイは経験主義に立脚し、ローティが言語論に立脚している事。第二に、デューイが科学的な方法を尊重するのに対して、ローティは解釈学的手法や会話を尊重する事。第三に、デューイが私的なものと公共的なものとの連続性を説くのに対して、ローティは私的なものと公共的なものとの断絶を説く点。第四に、デューイとローティでは感情、知性、想像力に関する重点の起き方が異なる点。この4つをデューイとローティの相違点として挙げています。

まぁ哲学を知らない方からすればなんのこっちゃという感じかも知れませんが、ともかく本書を読んでいただけるとわかりやすく解説してくれています。そこまで難解な本ではないのでオススメです。

こうしてデューイとローティを比較する事で、デューイの哲学の本質が理解しやすくなりますし、ローティの哲学がそれとどう違っているのかがわかります。何よりプラグマティズムが肝の部分でどう変化して来て、現代に続いているのかがよくわかります。

このプラグマティズムを理解する事でアメリカ人やアメリカ社会の動きがよくわかりますし、日本人もすごく参考にすべき点が多々あるなぁと実感します。

私もいろいろプラグマティズムを学ぶ上で、プラグマティズムの本質と、現代のプラグマティズムへの変遷が一番よく理解できたのが『ローティの教育論』でした。非常に要点を抑えていてわかりやすかったです。

ただパースやジェイムズから始まるプラグマティズム全体の知識をまず身につける上で魚津さんの『プラグマティズムの思想』もオススメですね。まず全くの初心者の方はコチラから読み始めてみるのも良いかも知れません。