クロセの書庫。

読んで面白かった本をこっそり紹介。

本を読む前に読んでほしい本、DaiGoさんの『知識を操る超読書術』。

おはようございます。今回はメンタリストDaiGoさんの『知識を操る超読書術』という本が面白かったので紹介したいと思います。

メンタリストDaiGoさんといえばYouTubeなどで活動されてて、ビジネスや恋愛に関する動画が多いですね。ちょっとテーマとしては自己啓発チックな動画が多いのですが、しっかりとした認知科学的なエビデンスがあって、内容そのものは非常に信用できるモノとなっています。

そんなDaiGoさんの著作ですが、少しタイトルや表紙もハウツー本的な雰囲気がありますが、内容そのものはかなり有意義でした。いろんな読書術に書いてる普遍的な内容を踏まえつつ、最新の科学のエビデンスも取り入れているという感じで、これは数ある読書術の本の中でもかなりオススメできるなと。

まず本書では「知識を操る読書のサイクル」という事で、

①本を読む準備をする

②本の読み方を知る

③本から得た知識をアウトプットする

そして③を経て①に戻るという、こういったサイクルが提唱されています。

中でも最も力を入れて解説されているのが①の「本を読む準備をする」という点ですね。

その準備として細かいノウハウが解説されてるのですが、要点となるのは「なぜ自分がこの本を読むのか」「本からどんな知識を得たいのか」という事を明確にする事が必要である、と述べられています。

これは私も読書をする上でめちゃくちゃ意識している事で、凄く共感しました。よく哲学書などを読んでいると「なぜそんなに難しい本を読めるの?」と問われる事がありますが、私も「まず問題意識を持ってください」と答える事にしてます。まず問題意識とか「悩み」のようなものを持って、それに答えてくれる本を選べば、「なるほど、この著者はこういう事が言いたいんだな」という事がわかって、かなり難しい本でも筆者の意図を読み取る事が出来るんですね。

また人間は読書に限らず「目的から入る」という事がとても重要ですね。例えば受験勉強などでも闇雲に教科書を読んだり問題集に取り組む人がいますが、まずは実際の試験問題を読んで「どこがわからないのか」という事を明確にして取り組む事が重要です。

少し話が逸れましたが、DaiGoさんも「まずこの本から何の知識を得たいのか」という事を明確にしてから本を読むべきである、と言っています。

そしてもちろん本も全てを読む必要はなくて、その求める内容が書かれている部分だけ読めばいい、という事を仰っています。これを「スキミング(拾い読み)」と呼びます。

スキミングのやり方として、まずは表紙や帯、目次を読んで、そして気になった一章だけを読んでみる、というやり方が書かれています。

この「目次を読む」というのも超重要で、他の読書術の本にもほぼ必ず書かれています。目次は読み飛ばされがちですが、その本の要点が詰まった部分なんですね。ここを読めば本の内容は大体わかります。

こうしてスキミングをして必要な部分だけを読むべきである、とDaiGoさんは主張しています。このやり方で1日に10冊から20冊の本を読んでいると言います。

この本の読み方も個人的にすごく共感できましたね。私もまず目次を読んで必要な部分だけ読むようにしています。私の場合は読書を始めてから律儀に最初から最後まで読んでいた期間がありましたが、この「要点だけ読む」というやり方に変えても、何も困る事はありませんでした。むしろ必要な情報のみに集中する事ができたので、却って1冊の本から得られるものは増えましたね。なのでこのDaiGoさんの読書法にはすごく共感する部分があります。

そしてDaiGOさんは速読に関しては否定的な立場です。速読は眉唾もので、読書において目の動きなどはそこまで重要ではないと。読書のペースが早まれば理解度も薄くなるので、重要なのは理解することだと主張されています。

この点も9割ほど同じ意見です。私の場合は文字を一文字ずつ読むのではなく、一つの文を一つの文字のように塊として読む、という簡単な速読をしています。

しかしこのやり方でも劇的に読むスピードが早くなるわけではありません。よくテレビなどでやっているように1冊を1分ぐらいでダーッと読む事は不可能ですね。それに全ての文章に一応は目を通して内容をなぞる事はできても、普通に難しい内容や勉強になる内容はもっとゆっくりと咀嚼しながら読むようにしています。なので私はDaiGoさんの言うところの「スキミング」の一つとして速読を取り入れてはいますが、よくテレビやハウツー本などで紹介されている驚異的な「速読」が眉唾ものである、という点はとても同意できますね。

こんな感じで私の愚見も交えながらDaiGoさんの読書術の「本を読む準備をする」という部分を解説させていただきましたが、他にも本書では「本の読み方を知る」「本から得た知識をアウトプットする」やり方として非常に有効的なやり方を紹介されています。どの章もすごくオススメです。

中でも個人的に響いたのは、良書だけを読むのではなくて、いわゆる悪書も「なぜ悪いのか」を考える問題集のように使えるという事です。確かに悪書は悪書で学ぶ点はすごくありますよね。変に本を選別するならば、悪書を恐れずガンガン読む事が必要だと思います。

また科学は最新のものを読むべきだが、古典の本もそれはそれで長く支持されてきた本なので読むべきだ、という事も後半に載っていて、これもよく言われる事ですが重要な視点ですね。最新の情報を得るという意外にも、優れた偉人の考え方を学ぶというのは重要です。

 この本もかなり普遍的に言われている読書術から、最新のエビデンスを取り入れた読書術も紹介されていて、非常に為になるなと思いました。私はいろんな本を読む前にまず読書術や読書法の本を読むべきだという考えを持ってますが、中でもこのDaiGoさんの本はかなりオススメできる部類に入るなーと感じたので紹介させていただきました。

現代アメリカを理解するための最強の一冊『ローティの教育論』。

おはようございます。今回は現代のアメリカを理解するためのオススメ本として、この『ローティの教育論』を挙げたいと思っています。

さて『ローティの教育論』というタイトルの本ですが、これはタイトルで最高に損をしているなと。この本は確かにローティの教育論を説いた本なのですが、それだけではなく最新の「プラグマティズム」のわかりやすい解説書であり、デューイとローティの哲学の「違い」をわかりやすく解説した本でもあります。

つまり教育論だけでなく哲学の解説書でもあり、かつプラグマティズムアメリカを理解するために超重要な部分を扱ったものなのです。

まず「プラグマティズム」とは何かと言いますと、哲学の中でもアメリカで生まれた哲学であり、現代のアメリカの根底を流れている哲学です。

アメリカに限らずどこの国もそうですが、日々のニュースや社会の動向を追っているだけでは、なかなかその国の本質は見えてきません。例えばドイツやフランスなどの大陸ヨーロッパではキリスト教に加えて大陸哲学の影響を大きく受けているし、中国ならば儒教共産主義の思想に大きく影響を受けている。イスラム圏の国々ならばもちろんイスラム教の思想に影響を受けている人が多いでしょう。

その点、日本はなかなかわかりにくいです。複数の思想や宗教が絡み合っている上に、文化として宗教や思想が(他の国と比べて)色濃く残っているわけではないので、わかりにくい。しかしそんな日本でも、例えば神道の考え方というのは今だに色濃く残っています。神道は他の宗教と違って「目的がない」宗教です。例えば仏教ならば解脱を目指して修行しますが、神道は「八百万の神々に感謝しながら日々を生きる」という、日常を穏やかに生きる事が目的となっています。こう言われると、確かに日本人はあまり感情的になる事も少なく、大きな目標に向かって一致団結する事もあまりなく、ただただ日々を生きる事を目的としている人が多い。神道の思想が根底に流れているような気がします。

少し話が逸れましたが、他の国々と同じように、現代のアメリカ人の哲学や思想としてもっとも強く流れているのが「プラグマティズム」というものです。「アメリカは多民族国家なのに一つの思想なんてあるもんか」と言われるかも知れませんが、「プラグマティズム」はそういった複数の思想の「調停者」的な役割がある思想でもあります。

その辺の話は魚津さんの『プラグマティズムの思想』という本がわかりやすいかも知れませんね。プラグマティズムが生まれるまでの社会的な背景もしっかり解説してくれているので、入門書としてはコチラもオススメです。

 さてそんなプラグマティズムですが、これも思想の原型が出来ていたのは1870年から74年頃だそうで、100年以上の歴史があるので一筋縄ではいかない。最初と比べてプラグマティズムの思想も変化していますし、もちろん哲学者によってグラデーションがあります。

ただプラグマティズムを理解する上でもっとも重要な哲学者であるジョン・デューイと、現代アメリカを代表する哲学者であるリチャード・ローティプラグマティズムにおける相違点を解説している『ローティの教育論』は、控えめに言ってかなりの良書ではないかなと。

『ローティの教育論』ではローティとデューイの関係性を以下のようなものとして捉えています。

ローティはデューイのプラグマティズムを現代の社会状況や思想的文脈において解釈し直し再評価してその今日的意義を見出しているのだが、デューイのプラグマティズムを全面に受け入れているわけではない。そのため、仔細に検討すると両者には相違する点も少なからず指摘できる。

 そしてその相違点として、第一にデューイは経験主義に立脚し、ローティが言語論に立脚している事。第二に、デューイが科学的な方法を尊重するのに対して、ローティは解釈学的手法や会話を尊重する事。第三に、デューイが私的なものと公共的なものとの連続性を説くのに対して、ローティは私的なものと公共的なものとの断絶を説く点。第四に、デューイとローティでは感情、知性、想像力に関する重点の起き方が異なる点。この4つをデューイとローティの相違点として挙げています。

まぁ哲学を知らない方からすればなんのこっちゃという感じかも知れませんが、ともかく本書を読んでいただけるとわかりやすく解説してくれています。そこまで難解な本ではないのでオススメです。

こうしてデューイとローティを比較する事で、デューイの哲学の本質が理解しやすくなりますし、ローティの哲学がそれとどう違っているのかがわかります。何よりプラグマティズムが肝の部分でどう変化して来て、現代に続いているのかがよくわかります。

このプラグマティズムを理解する事でアメリカ人やアメリカ社会の動きがよくわかりますし、日本人もすごく参考にすべき点が多々あるなぁと実感します。

私もいろいろプラグマティズムを学ぶ上で、プラグマティズムの本質と、現代のプラグマティズムへの変遷が一番よく理解できたのが『ローティの教育論』でした。非常に要点を抑えていてわかりやすかったです。

ただパースやジェイムズから始まるプラグマティズム全体の知識をまず身につける上で魚津さんの『プラグマティズムの思想』もオススメですね。まず全くの初心者の方はコチラから読み始めてみるのも良いかも知れません。

『旅のラゴス』という神小説の魅力をなんとかして伝えたい。

おはようございます。今回は『旅のラゴスという小説の書評です。

かなり有名な小説で、1994年に発刊されてから年3000冊から4000冊ぐらいが売れ続けるロングセラーだったそうですが、2014年に10万冊以上が売れる大ヒットを記録しました。これは新潮社にとってもなぜ売れたのかわからない大ヒットだったようで、「謎のヒット」と呼ばれているそうです。私も丁度14年ぐらいに読んだと思いますが、ネットなどで複数の人が「おすすめの小説」としてよくピックアップしていたのを覚えています。なので読んだ事がある人も多いかも知れませんが、紹介したいと思います。

物語の舞台は、何かしらの高度な文明が衰退し、代わりに人々が超能力を持ち始めた世界です。SFファンタジー的な世界観ですね。主人公のラゴスがある目的を持って旅をしていきます。道中いろんな人に出会ったり、いろんな出来事が起きながら旅が進んでいきます。

まぁ旅と言っても普通の旅ではなく、青年のラゴスがおじいちゃんになってもずっと旅をしている物語なので、旅を人生そのものになぞらえた作品だと言えますね。

そして私はこの度のラゴスを5年ほど前に読んだのですが、めちゃくちゃハマりました。特に後半は一回も休まずに一気読みした覚えがあります。

少しネタバレになるのですが、物語の最初にラゴスはある村の女の子に恋をします。しかしラゴスには旅をする目的があるので、その女の子は村に残して、また旅が終われば会いに来るつもりで旅を続けるんですね。

それだけに道中、いろんなトラブルに巻き込まれ、月日がどんどん過ぎていく度に「いやこんな事してる場合なのかよ・・・」という焦りのようなものが読んでて生まれました。それが物語のスパイスになって、独特なスリルのようなものを感じながら読み進める事になりました。

そして道中で起きる出来事もすごく面白いんですよね。いろんな超能力者に出会ったり、奴隷にされて働かされたり、意図せずして王国を作る事になってしまったり。一つ一つが「そうなるのか!」という出来事の連続で、とてもスリリングです。

私が好きなシーンが、ラゴスが大昔に衰退した高度な文明が残した書物を読み漁るシーンがあるのですが、ラゴスが一つ一つの学問にすごく衝撃を受けていくんですね。そのラゴスの学問への解釈が、恐らく著者の思いも投影したものだと思うのですが、やはり面白かったですね。

しかしやはりこの本が真の名著だなと思うのは、超能力とかSF的な要素や、いろんな出来事よりも、人間や人生に対する深い洞察が盛り込まれている点だと思います。

登場人物は一人一人がすごくキャラが立ってるんですよね。そして一人一人がいろんな事に悩んでたり、いろんな出来事を引き起こすわけです。

読んでて「あぁ、こういう人いるよなー」と共感を覚える事もありますし、「こういう感じの人は最後にはこうなるのかなぁ」という学びを得られる事もあります。

特に主人公のラゴスにはすごく共感できましたね。最後にあるものを求めてやはり旅をしていくわけですが、「まぁ人間ってどこまで行ってもこういうものだよなぁ」という深い共感を覚えました。

そして人生そのものを描いた本でもあると思います。いろいろうまく行かない事があったり、悩む事があったり。なんというか、ずっと一本道ではないんですよね。いろいろ寄り道をしたり、本来の目的から逸れたり、思いがけない事があったりして、ウロウロしつつ手探りで進んでいくのが人生だよなーと。そういう(私の解釈ですが)人生の本質みたいなものがよく描かれているなぁと思いました。

そして物語の世界観もやはり素敵ですね。SFファンタジーなのですが、全くメカメカしい世界観でもなければ、宇宙やらが絡んでくる事もありません。ひっそりとした荒野を旅するような、落ち着いていて、しかしどこか神秘的でノスタルジックな感じです。他のSF小説にもなかなか無いような雰囲気を醸し出していて、そちらにも私はドハマリしました。

そんな旅のラゴスですが、結構評価が分かれる本としても有名です。ネットでもかなり評価が二分していますし、私もよく友人に勧めるのですが評価が分かれます。

人によっては「めちゃくちゃ面白かった」となりますし、逆に「言われているほど響かなかった」という人もいます。

評価の低い人はなぜ低いのかと考えてみましたが、一つはあまり「納まりがよい」話ではないです。なんかハッキリとしたオチが待っているわけでもなく、むしろ大きな謎が残されています。

更に一応はラゴスの旅の目的も決まっているのですが、やはり恋愛的な要素も物語に大きく絡んできますし、本筋とは関係ないような話もどんどん起きます。まぁ実際の旅や人生みたいなもので、道中を楽しんでいくような小説です。

起承転結のハッキリとした、わかりやすい話を求めている方にはあまり不向きなのかなと思います。

後はどの小説にも言える事ですが、やはり登場人物に共感できるかどうかという点も重要かも知れませんね。

しかしそれにしても、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さると思います。実際、私もものすごく刺さりました。恐らくいろいろ小説を読んできた中でもトップ3には間違いなく入りますね。

そんなにページ数も多くないはずの小説なのですが、ものすごい長編小説を読み終えたような読後感があります。一人の人間の人生を覗き見するような感じです。

すごく感じる事とか、学びになるような事が沢山あります。一人でも多くの「刺さる人」に届いてほしいので、ぜひ一度読んでみてください。

哲学や思想を学びたい人に超おすすめの一冊『倫理用語集』。

おはようございます。

いつもツイッターなどで「哲学を学ぼう」とか「思想的なバックボーンを持とう」と言っている私ですが、「具体的にどんな本を読めば良いのか」という問いには「まずデカルトを読め」とか「とにかく古典の本を読め」などと、今思うと初心者には少し酷なことを言ってきたかなと思います。

というのも、哲学の入門書はコレというものがなかった。まず個別の哲学者について掘り下げた入門書が多いし、哲学史全体を説いた入門書でも「広く浅く」になってしまってたり、抜けてる期間があったり、筆者独自の主観が入ってたりで、まぁ「読み物」として何冊か読む分には良いですが、一つだけオススメできるものがなかったんですね。

しかしそんな中でこの『倫理用語集』という本の存在を知りました。

「倫理」と書いてますが、完全に哲学や思想を説いた本です。これがとにかく哲学や思想の入門書としてはオススメだなぁと。

山川出版さんの教科書といえば受験生など学生が読むものというイメージがあるかもしれませんが、こちらの倫理用語集はむしろ大人の学び直しに超オススメですね。

最近、ぴよぴーよ速報さんというYouTubeチャンネルでも紹介されていました。というか、それを見て買ったのですが。

www.youtube.com

 この動画でも言ってるように、岩波文庫の個別の哲学書を読んでも、「まぁ肝となる部分は倫理用語集に書いてるなぁ」となる事が多いです。それぐらい網羅的に、かつ内容が深く書かれています。

そして何よりこの倫理用語集がオススメなのは、用語集というので個別の哲学や哲学者について書かれているのかと思いきや、全体的な哲学史としての流れが読み取れるところです。

例えばバークリーという哲学者について書かれた部分ではこうです。

事物は心によって知覚される限りにおいて存在すると考え、『存在するとは知覚されることである』と説いた。

 まぁこれはすごく簡単に言うと、どんなモノも自分が見たり触ったりするから存在すると言えるんだなぁ、というような感じの内容です。

 そしてバークリーを解説した直後に、ヒュームについて以下のように書かれて言います。

あらゆる事物のあらわれを、人間が経験する感覚的印象に還元し、知覚のほかには何も実在しないと説いた。(中略)バークリーが実体と認めた自我さえも、知覚の束にすぎないものとして実在を否定した。

 つまりバークリーはいろんなモノを認識する主体としての「自分」は認めていたわけですが、ヒュームはそれすらも否定した事がわかります。

ヒュームは自我さえも否定し、単に「〇〇を感じた」という知覚の束のようなものが「自我」と呼ばれているものである、と。

この流れは非常にわかりやすいですよね。単に「ヒュームは知覚のほかには何も実在しないと説いた」的な説明だけだと、それが哲学史的にどう凄いのかよくわかりませんからね。

そしてこんな感じで、全ての哲学や哲学者に対する掘り下げが、結構深いんですよね。これを読むだけである程度はバークリーやヒュームがイギリス経験論においてどう意義があるのか、というのが語れてしまいます。

これほどの濃さがありながら、カバーしている範囲も非常に手広いです。

第1部は『青年期の特質と課題』というタイトルで、モラトリアムとかアイデンティティの確立とかフロイト精神分析とか、高校倫理で習うような用語がたくさん紹介されています。

第2部は『思想の源流』というタイトルで、古代ギリシア哲学やキリスト教、仏教、イスラム教、古代中国の思想などの古代の思想がかなり網羅的に解説されています。

第3部は『日本の思想』ですね。日本古来の土着の思想に始まり、奈良仏教から鎌倉仏教までの日本の仏教の変遷や、朱子学や武士道や国学などの近世の思想、そして福沢諭吉などの近代日本人の思想が解説されています。

そして第4部、第5部とルネサンスデカルトから始まりポストモダンプラグマティズムなどの現代の哲学までが解説されてます。第6部は生命倫理などの現代の課題を扱っていますね。

非常に手広いですね。大体これを読むことで世界中の思想が俯瞰的にわかるようになります。哲学や思想を学びたての方は第1部から順番に読んでいってもいいですし、それなりに学んできた方は自分があまり知らない分野を補強するために読んだり、逆に知ってる分野を「こういう解釈で良いのか」と確認するために読むのもいいですね。

私も近世以降の哲学はそれなりに齧ってきたつもりでしたが、改めて誰がどんな事を言っているのか整理できましたし、初めて知った用語もありましたね。非常に細かい哲学者まで取り扱ってますし、どの哲学者がどの時代にどこで何をしていたかなど、史学的な部分もかなり取り扱ってくれてるので、見聞が広がります。

もちろん哲学や思想を勉強していく上でわからない単語を調べる辞書的な役割としてもオススメですね。

やはり餅は餅屋といいますが、教科書を使っている山川出版さんの本はすごくビギナーに適しているなと思いました。

他にも哲学の入門書などはあるのですが、ここまでの範囲と中身を両立しているものは見た事がないですね。

そして他の哲学の入門書はやはり哲学書としての面が強いんですね。哲学者があくまで自分の哲学をわかりやすく書いてたり、導入のために必要な知識を解説する、という感じで。

その点、こちらの『倫理用語集』ももちろん学者さんが監修しているのですが、最初から初心者向けの教科書として特化して書かれているので、非常に普遍的な内容で、誰にでもわかりやすいという点があると思います。