クロセの書庫。

読んで面白かった本をこっそり紹介。

『旅のラゴス』という神小説の魅力をなんとかして伝えたい。

おはようございます。今回は『旅のラゴスという小説の書評です。

かなり有名な小説で、1994年に発刊されてから年3000冊から4000冊ぐらいが売れ続けるロングセラーだったそうですが、2014年に10万冊以上が売れる大ヒットを記録しました。これは新潮社にとってもなぜ売れたのかわからない大ヒットだったようで、「謎のヒット」と呼ばれているそうです。私も丁度14年ぐらいに読んだと思いますが、ネットなどで複数の人が「おすすめの小説」としてよくピックアップしていたのを覚えています。なので読んだ事がある人も多いかも知れませんが、紹介したいと思います。

物語の舞台は、何かしらの高度な文明が衰退し、代わりに人々が超能力を持ち始めた世界です。SFファンタジー的な世界観ですね。主人公のラゴスがある目的を持って旅をしていきます。道中いろんな人に出会ったり、いろんな出来事が起きながら旅が進んでいきます。

まぁ旅と言っても普通の旅ではなく、青年のラゴスがおじいちゃんになってもずっと旅をしている物語なので、旅を人生そのものになぞらえた作品だと言えますね。

そして私はこの度のラゴスを5年ほど前に読んだのですが、めちゃくちゃハマりました。特に後半は一回も休まずに一気読みした覚えがあります。

少しネタバレになるのですが、物語の最初にラゴスはある村の女の子に恋をします。しかしラゴスには旅をする目的があるので、その女の子は村に残して、また旅が終われば会いに来るつもりで旅を続けるんですね。

それだけに道中、いろんなトラブルに巻き込まれ、月日がどんどん過ぎていく度に「いやこんな事してる場合なのかよ・・・」という焦りのようなものが読んでて生まれました。それが物語のスパイスになって、独特なスリルのようなものを感じながら読み進める事になりました。

そして道中で起きる出来事もすごく面白いんですよね。いろんな超能力者に出会ったり、奴隷にされて働かされたり、意図せずして王国を作る事になってしまったり。一つ一つが「そうなるのか!」という出来事の連続で、とてもスリリングです。

私が好きなシーンが、ラゴスが大昔に衰退した高度な文明が残した書物を読み漁るシーンがあるのですが、ラゴスが一つ一つの学問にすごく衝撃を受けていくんですね。そのラゴスの学問への解釈が、恐らく著者の思いも投影したものだと思うのですが、やはり面白かったですね。

しかしやはりこの本が真の名著だなと思うのは、超能力とかSF的な要素や、いろんな出来事よりも、人間や人生に対する深い洞察が盛り込まれている点だと思います。

登場人物は一人一人がすごくキャラが立ってるんですよね。そして一人一人がいろんな事に悩んでたり、いろんな出来事を引き起こすわけです。

読んでて「あぁ、こういう人いるよなー」と共感を覚える事もありますし、「こういう感じの人は最後にはこうなるのかなぁ」という学びを得られる事もあります。

特に主人公のラゴスにはすごく共感できましたね。最後にあるものを求めてやはり旅をしていくわけですが、「まぁ人間ってどこまで行ってもこういうものだよなぁ」という深い共感を覚えました。

そして人生そのものを描いた本でもあると思います。いろいろうまく行かない事があったり、悩む事があったり。なんというか、ずっと一本道ではないんですよね。いろいろ寄り道をしたり、本来の目的から逸れたり、思いがけない事があったりして、ウロウロしつつ手探りで進んでいくのが人生だよなーと。そういう(私の解釈ですが)人生の本質みたいなものがよく描かれているなぁと思いました。

そして物語の世界観もやはり素敵ですね。SFファンタジーなのですが、全くメカメカしい世界観でもなければ、宇宙やらが絡んでくる事もありません。ひっそりとした荒野を旅するような、落ち着いていて、しかしどこか神秘的でノスタルジックな感じです。他のSF小説にもなかなか無いような雰囲気を醸し出していて、そちらにも私はドハマリしました。

そんな旅のラゴスですが、結構評価が分かれる本としても有名です。ネットでもかなり評価が二分していますし、私もよく友人に勧めるのですが評価が分かれます。

人によっては「めちゃくちゃ面白かった」となりますし、逆に「言われているほど響かなかった」という人もいます。

評価の低い人はなぜ低いのかと考えてみましたが、一つはあまり「納まりがよい」話ではないです。なんかハッキリとしたオチが待っているわけでもなく、むしろ大きな謎が残されています。

更に一応はラゴスの旅の目的も決まっているのですが、やはり恋愛的な要素も物語に大きく絡んできますし、本筋とは関係ないような話もどんどん起きます。まぁ実際の旅や人生みたいなもので、道中を楽しんでいくような小説です。

起承転結のハッキリとした、わかりやすい話を求めている方にはあまり不向きなのかなと思います。

後はどの小説にも言える事ですが、やはり登場人物に共感できるかどうかという点も重要かも知れませんね。

しかしそれにしても、刺さる人にはめちゃくちゃ刺さると思います。実際、私もものすごく刺さりました。恐らくいろいろ小説を読んできた中でもトップ3には間違いなく入りますね。

そんなにページ数も多くないはずの小説なのですが、ものすごい長編小説を読み終えたような読後感があります。一人の人間の人生を覗き見するような感じです。

すごく感じる事とか、学びになるような事が沢山あります。一人でも多くの「刺さる人」に届いてほしいので、ぜひ一度読んでみてください。